銀杏の季節平良は私のこと好き? 尋ねても平良はいつもの優しい笑顔で うん しか言わない。 それ以上、それ以下の言葉も言わない。 いつもの平良の家の帰り道。 朝目覚めても、いつしか平良のことを一番に考えなくなった。 だって平良もそうだと思うから。 ぐしゃぐしゃの頭をなでながら洗顔のために階段を下りる。 その間ですら私の頭の中に過ぎるのは洋食と和食どっちにしようか迷うくらい。 平良は何を考えているのだろう。 付き合い始めはそう思ったこともあったけど、今は何も考えない。 朝食を終え、身支度を整え、学校へ向かおうと玄関で靴を履いてドアを開けると いつも先に見えるのは黄色い葉をつけたばかりの銀杏の木だったのだが、今日見えたのはその景色ではなかった。そこにいたのは、背がひょろりと高く、黒い髪に白いのが少し混じっていて、これから会社なのか、正装とも思えるスーツを着た、40代後半くらいの男の人が立っていた。 密かに平良かなと思ったことは否定しない。 誰だろう・・・ 途中まで考えると、ドアを開けた音はしたのに閉めた音がしなく不思議に思ったのか、母が台所からどうしたの?と来た。そして母は一言言った。 あなた・・・・ 私の家に父はいない。死んだのか別れたのかは知らないが、小さいころからそう聞かされていた。 あなたと呼ばれた男の人も一言言った。 今まで悪かった。 私には何が何だか解らなく、解っていても理解したくなくてその場を後にし、銀杏の木の見える道路へと駈けだした。 道路をでて、石垣を曲がるとそこには平良がいた。 私は胸が熱くなり何故か涙をこぼした。 平良は何も言わず自分を胸の中に私を沈めた。 学校へ向かう途中平良は何も聞いてこなかったし一言も言葉を発さなかった。 ただ、黙って私の隣で、私のペースに合わせて歩いてくれた。 だからなんだ。 だから私平良が好きなんだ。平良のこと好きだから平良が私を好きかを聞きたかったんだ。 そう確信するとさっきまでの涙は止まり、今度は自分が対する想いに対して恥ずかしさと驚きで涙が頬を伝った。 また泣き出した私を見て平良は一瞬驚いた様子だったけど、また前を向いて私のペースに合わせて隣を歩いてくれた。 ふいに口から言葉が漏れた。 平良は私のこと好き? 平良はいつものように、いつもの声で、だけどいつもより優しい雰囲気で少し照れた間を空けて、 うん と言った。 銀杏の季節のある日の出来事。 |